Z世代部下とのギャップを認知行動療法の文脈で捉える

「Z世代の部下が何を考えているか分からない」「指示がないと動かない」「不本意な仕事をさせるとすぐに辞めると言われる」…Z世代の部下育成において、このような悩みを抱える管理職の方は少なくないでしょう。しかし、これらの課題は、彼らとのコミュニケーションのギャップから生まれているのかもしれません。
今回は、認知行動療法(CBT)のエッセンスを取り入れ、Z世代の部下とのより良い関係性を築き、彼らの潜在能力を引き出すためのヒントをご紹介します。
認知行動療法とは?そのエッセンスを部下育成に応用する
認知行動療法は、私たちの感情や行動が、物事に対する「認知(考え方や受け止め方)」によって大きく左右されるという考えに基づいています。例えば、同じ状況でも「これはチャンスだ!」と捉える人もいれば、「自分には無理だ…」と捉える人もいます。そして、その認知が、その後の感情や行動に影響を与えるのです。
これを部下育成に応用すると、部下の行動の背景にある認知を理解し、必要であればその認知に働きかけることで、より良い結果を導き出せる可能性があります。
1. 「何を考えているか分からない」と感じる時:認知の探索と明確化
Z世代の部下が何を考えているか分からず、困惑することはよくあります。彼らがなかなか意見を発信しないのは、「自分の意見が受け入れられないのではないか」「間違っていたらどうしよう」といった認知を持っているからかもしれません。
- オープンな質問で「認知」を引き出す
- 「どう思う?」と単刀直入に聞くのではなく、「この件について、他に何か懸念していることはある?」「もしこうなったら、どんな影響があると思う?」など、具体的な状況を想定したオープンな質問を投げかけましょう。これにより、彼らの内にある考えや懸念を引き出しやすくなります。
- 「正解」を求めない姿勢を示す
- 彼らの意見や発言に対して、すぐに評価を下したり、否定したりするのではなく、「なるほど、そういう考え方もあるね」「そうか、君はそう感じたんだね」と、まずは受容的な姿勢を示しましょう。これにより、彼らは安心して自分の意見を表明できるようになります。
- フィードバックの機会を増やす
- 彼らが意見を出してくれた際には、「その視点はなかったよ、ありがとう!」「すごく助かったよ」など、具体的な感謝と肯定的なフィードバックを伝えましょう。良い経験を重ねることで、「自分の意見は価値がある」というポジティブな認知が形成されます。
2. 「言われないとやらない」から「自ら動く」へ:自己効力感の向上
「言われた仕事はこなすが、それ以上のことはやろうとしない」「細かな指示が必要」という悩みは、彼らが「自分にはもっとできる」「自分で考えて行動する意味がある」という自己効力感を感じにくい状況にあるのかもしれません。
- スモールステップで成功体験を積ませる
- いきなり大きな裁量を与えるのではなく、まずは達成可能な小さなタスクを任せてみましょう。そして、それが成功したら具体的に褒め、その成果を認識させます。例えば、「この資料、君に任せるよ。まず最初の2ページだけ、構成案を考えてみてくれる?」といった具合です。
- 達成のプロセスに焦点を当てる
- 結果だけでなく、そのプロセスで彼らがどのように工夫し、課題を乗り越えたのかに焦点を当ててフィードバックしましょう。「この部分、君が粘り強く調査してくれたおかげで、より良い提案になったね」など、彼らの努力や貢献を具体的に伝えることで、自身の行動が結果に繋がったという認識を強化します。
- 権限委譲と裁量の機会を作る
- Z世代は自分でコントロールできることに価値を見出す傾向があります。完全に任せるのが難しい場合でも、「この部分については、君の判断に任せるよ」と部分的にでも裁量を与える機会を作りましょう。これにより、「自分にはできる」という自己効力感が育まれます。
3. 「向いてない」「辞めます」と言われたら:リフレーミングとキャリアの対話
不本意な仕事を割り当てた際に、「向いてない」「辞めます」といった反応が返ってくることは、管理職にとって大きなストレスです。これは、彼らがその仕事を「自分にとって意味のないもの」「不利益なもの」とネガティブに認知しているためかもしれません。
- ネガティブな認知をリフレーミングする
- 「これは向いてない」という部下の発言に対し、「そうか、向いてないと思うんだね。でも、この仕事を通じて、君が将来役立つ〇〇のスキルを身につけることができると考えているんだ。具体的には…」といったように、その仕事のポジティブな側面や将来的な価値を具体的に伝え、認知をリフレーミング(捉え方を変えること)しましょう。
- キャリアプランとの接続点を共有する
- 彼らが「意味がない」と感じる仕事でも、それが彼らのキャリアプランや成長にどう繋がるのかを明確に伝えましょう。「今は地味に感じるかもしれないけど、この経験は将来、君が◎◎の役割を担う上で不可欠な基礎力になるんだ」と、長期的な視点を提供します。
- 対話を通じて「選択肢」を検討する
- 「辞めます」と言われたら、感情的に反応せず、まずは彼らの真意を聞きましょう。「なぜそう思うの?」「他に何か困っていることはある?」と、彼らの背景にある感情や認知を理解しようと努めます。その上で、「もし君が本当に今の仕事が合わないと感じるなら、他にどんな仕事に興味がある?」「チームとして、他にどんな貢献ができると思う?」など、代替案や解決策を共に考える姿勢を示すことが大切です。すべての要望に応えられなくても、彼らが尊重されていると感じることで、信頼関係が深まります。
Z世代の部下育成は、彼らの多様な価値観を理解し、個々に合わせたコミュニケーションを築くことが鍵となります。今回ご紹介した認知行動療法のエッセンスは、彼らの内面にある認知に寄り添い、ポジティブな変化を促すための強力なツールとなるでしょう。
一方的に「こうあるべきだ」と押し付けるのではなく、彼らの「考え方」や「感じ方」に耳を傾け、共に成長していく視点を持つことで、Z世代の部下たちはきっとあなたの期待を超える力を発揮してくれるはずです。
【注意】このアプローチの目的と限界
このブログシリーズは、あくまで業務上のコミュニケーションを改善し、パフォーマンスを向上させるためのヒントとして認知行動療法を取り上げています。管理職はセラピストではありません。部下の精神的な問題には深入りせず、必要に応じて産業医や専門家につなぐ役割に徹してください。扱うテーマは仕事上の課題に限定し、部下のプライベートな問題には踏み込まないことが重要です。下記のガイドも併せてご参照ください。