【続々編】Z世代の部下育成、その前に。「価値観」のレンズで彼らと向き合う

前回の記事では、「Z世代」という一括りのラベルが、部下一人ひとりの個性を見過ごすリスクについてお伝えしました。今回は、その個別理解をさらに深めるために、彼らの行動や思考の背景にある「価値観」と「キャリア観」に焦点を当てていきます。Z世代が何を大切に思い、どんな働き方を求めているのかを理解することは、心理学の知見からも非常に重要です。
Z世代の価値観を紐解く「自己決定理論」というレンズ
Z世代の価値観を語る上で、自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)という心理学のフレームワークが役立ちます。これは、人間が内発的なモチベーションを維持するために不可欠な3つの基本的心理欲求があると提唱するものです。
- 自律性(Autonomy): 自分の意思で行動を決めたい、選択したいという欲求。
- 有能感(Competence): 自分の能力を発揮し、物事を成し遂げたいという欲求。
- 関係性(Relatedness): 他者と繋がり、尊重されたいという欲求。
これらの欲求が満たされる環境では、人は自ら目標に向かって主体的に行動し、高いパフォーマンスを発揮します。Z世代が重視する価値観やキャリア観は、まさにこの3つの欲求を満たそうとする行動の表れだと考えることができます。
心理的欲求から読み解くZ世代の価値観
この理論を当てはめてZ世代の価値観を紐解いてみましょう。
- パーパス(存在意義・目的)「なぜこの仕事をするのか」という問いは、単なる好奇心ではありません。これは、自分の仕事が社会やチームにどう貢献しているかを理解することで、「自律性」や「有能感」を満たそうとする欲求です。自分の行動に意味を見出し、主体的に動きたいという彼らの内発的な動機に直結します。
- ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)ワークライフバランスを重視し、心身の健康を大切にするのは、「自律性」の欲求が背景にあります。過度な残業やストレスで疲弊する状態は、自分の人生をコントロールできていないと感じさせます。自分の時間や心身の状態を自分で選択・決定できる状態を彼らは求めているのです。
- タイパ(タイムパフォーマンス)無駄な会議や非効率な業務を嫌うのは、時間を「有能感」や「自律性」を高めるために使いたいという思いがあるからです。効率的に仕事を終わらせて新しいスキルを学ぶ時間にあてたり、プライベートを充実させたりしたいという、彼らの合理的な選択なのです。
「出世」よりも「自己成長」?Z世代のキャリア観
Z世代は、旧来の「終身雇用」や「年功序列」といったキャリアモデルが機能しない時代に育ちました。そのため、一つの会社に定年まで勤め上げることよりも、自身の市場価値を高めることに重きを置く傾向があります。これもSDTで説明できます。
- スキルアップと自己成長「有能感」を満たしたいという欲求の表れです。彼らは、常に新しいスキルを習得し、自己をアップデートしていくことで、自身の能力を証明し、成長を実感したいと考えています。企業に対しては、この「有能感」を満たすための環境、すなわち成長の場を提供してくれることを期待しています。
- 専門性と個性を活かす働き方自分の得意なことや興味のある分野を深掘りし、専門性を高めたいと考えるのは、「自律性」と「有能感」を同時に満たそうとする行動です。自分で選択した専門分野で能力を発揮し、個性を活かす働き方を望んでいるのです。
- ワークライフバランスの重視柔軟な働き方を求めるのは、仕事と私生活のどちらも自律的にコントロールしたいという強い欲求があるからです。自分らしく生きるために、働く時間や場所を自分で選択したいと考えています。
Z世代の価値観を理解し、育成に活かすには
これらの価値観やキャリア観は、心理学的に見ても非常に自然な欲求に基づいています。彼らの行動を「わがまま」と捉えるのではなく、「3つの欲求を満たそうとしている」と理解することで、育成へのアプローチが大きく変わります。
- パーパスの共有と意味づけ:業務がチームや会社、ひいては社会にどう貢献しているかを明確に伝え、自律性と有能感を満たしましょう。
- 成長機会の提供とフィードバック:挑戦する機会と、そのプロセスでどのような学びがあったかを具体的にフィードバックすることで、有能感を強化しましょう。
- 柔軟な働き方の導入:リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を導入し、彼らが自律性をもって仕事に取り組める環境を整えましょう。
心理的欲求を満たすマネジメントへ
Z世代の価値観やキャリア観は、彼らが持つ「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的欲求に基づいていると捉えることができます。
彼らの行動を深く理解し、これらの心理的欲求を満たすようなマネジメントを心がけること。それこそが、世代を超えた信頼関係を築き、彼らの内発的なモチベーションを引き出す鍵となるのではないでしょうか。