【続編】Z世代の部下育成、その前に。「世代」というレンズの光と影を知る

Z世代の部下育成

前回の記事では、Z世代の部下育成における課題と、認知行動療法のエッセンスを取り入れたコミュニケーションのヒントをご紹介しました。しかし、その議論を進めるにあたり、私たちは立ち止まって考える必要があります。「そもそもZ世代とは、本当に一つのまとまりとして捉えられるものなのだろうか?」と。

「世代」という言葉が持つ曖昧さ

「Z世代」という言葉は、マーケティングやメディアで頻繁に使われ、あたかも共通の特徴を持つ集団であるかのように語られます。一般的には、1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代を指すとされますが、その定義は研究者や機関によって曖昧です。社会経済状況、技術革新のスピード、文化的潮流など、様々な要因が複雑に絡み合い、世代を区切る明確な線引きは存在しません。

重要なのは、「世代」というラベルは、あくまで便宜的なものであり、その中に多様な個人が存在するという事実を認識することです。

Z世代に共通すると言われる特徴、本当にそうなのか?

Z世代は、幼い頃からインターネットやSNSが身近にあり、「デジタルネイティブ」と呼ばれることがあります。情報収集能力が高い、多様な価値観に寛容、社会問題への関心が高いといった特徴が指摘されることもあります。

しかし、本当に全てのZ世代がこれらの特徴に当てはまるのでしょうか?都市部で育ったZ世代と地方で育ったZ世代、経済的に恵まれた家庭で育ったZ世代とそうでないZ世代、ジェンダーや性的指向による経験の違いなど、個人の置かれた環境や価値観は多岐にわたります。

「Z世代だから〇〇だ」というステレオタイプな見方は、個々の部下の個性や才能を見誤らせる危険性があります。

個人の違いを無視したマネジメントの落とし穴

もし私たちが、Z世代を一括りにして「彼らは〇〇だから、△△というマネジメントをすれば良い」と考えてしまうと、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 画一的な指示によるモチベーション低下: 個々の能力や興味関心を無視した指示は、部下のエンゲージメントを低下させ、「言われたことだけをやる」という受け身の姿勢を助長する可能性があります。
  • 潜在能力の見過ごし: ステレオタイプな見方にとらわれていると、部下が持つ独自の強みや才能を見落とし、適切な役割や挑戦的な機会を与えられないことがあります。
  • 不必要な摩擦の発生: 一方的な決めつけは、部下からの反発や不信感を生み出し、円滑なコミュニケーションを妨げる原因となります。

認知のズレは「世代」だけが原因ではない

前回の記事で触れたような、上司とZ世代の部下との間の「何を考えているか分からない」「指示待ち」「すぐに辞める」といった認知のズレは、確かに世代間の価値観や働き方の違いに起因する側面もあるでしょう。

しかし、その背景には、個々の性格、経験、スキル、キャリア目標、そして置かれている状況など、多様な要因が複雑に影響し合っていることを忘れてはなりません。

例えば、「自分の意見を発信しない」のは、Z世代全体の特徴ではなく、内向的な性格であったり、過去に発言した際に否定的な経験をしたことがあるといった個人的な要因かもしれません。「言われないとやらない」のは、指示の意図や目的が十分に理解できていない、あるいは業務の優先順位付けに迷っているといった状況が考えられます。「すぐに辞める」背景には、仕事内容への不満だけでなく、人間関係の悩みやキャリアパスへの不安など、複合的な要因が存在する可能性も十分にあります。

個別理解に基づいたコミュニケーションこそが鍵

Z世代の部下育成において重要なのは、「世代」という大まかな枠組みで捉えるのではなく、一人ひとりの個性や価値観、強み、課題を丁寧に理解しようと努めることです。

そのためには、以下のようなアプローチが求められます。

  • 個別面談の質の向上: 定期的な面談を通じて、部下のキャリア目標、仕事へのモチベーション、困っていることなどをじっくりとヒアリングし、共感的な姿勢で耳を傾けましょう。
  • 観察とフィードバック: 日常業務における部下の行動や成果を注意深く観察し、具体的な根拠に基づいたフィードバックを行いましょう。その際、一方的な評価ではなく、部下の成長を支援する視点を意識することが重要です。
  • 多様な働き方の尊重: Z世代は、ワークライフバランスを重視する傾向があると言われます。柔軟な働き方や多様なキャリアパスの選択肢を提供することで、個々のニーズに合った働き方を支援しましょう。
  • 心理的安全性の確保: 部下が安心して自分の意見や疑問を発言できるような、オープンで心理的に安全なチーム環境を作りましょう。

「世代」というレンズを通して、個々の「顔」を見る

「Z世代」という言葉は、彼らを理解する上での一つのヒントにはなり得ますが、決して全てを説明できる万能なツールではありません。世代の特徴を知ることは重要ですが、そこで思考を停止するのではなく、その奥にいる一人ひとりの個性や背景に目を凝らし、丁寧なコミュニケーションを重ねていくことこそが、Z世代の部下の潜在能力を引き出し、共に成長していくための最も重要な姿勢と言えるでしょう。