「笑い」は組織の潤滑油?──ユーモアと信頼のマネジメント

今日は「ユーモアと組織コミュニケーション」について、少し真面目に考えてみたいと思います。
最近読んだ学術論文『Organizational Humor: A Foundation for Future Scholarship, a Review, and a Call to Action』(Cooper & Schweitzer, 2025)は、私たち実務家にも多くのヒントを与えてくれます。そこでは、組織内のユーモアが信頼や協力の促進に大きな可能性をもつ一方で、不適切な使い方によって関係性を傷つけてしまうリスクもあることが指摘されています。
実際に私が現場で見た光景ですが、ある営業チームのマネージャーが打ち合わせの冒頭で「さて、今週も全員で生き延びましたね(笑)」と笑いを交えた一言を投げかけていました。これがきっかけで、メンバーたちはリラックスした雰囲気になり、ミスの共有や相談なども増えているようです。
こうした「自分も未熟である」と示すようなユーモアは、いわば“対等さ”の合図になります。リーダーが完璧でなければならない、という幻想から解放され、チームに「ここでは失敗しても大丈夫」という空気をつくり出します。
一方で、ユーモアが組織の毒になることもあります。別の職場では、リーダーが部下の名前をもじったあだ名で呼ぶ文化がありました。「親しみのつもり」だったそうですが、実際には言われた本人が内心ストレスを感じており、周囲も笑えない空気を察していました。こうしたユーモアは、受け手との関係性や信頼の有無によって、善意が悪意にすり替わってしまうのです。
前述の論文でも、ユーモアには「社会的な境界をつくる」機能があるとされています。ある笑いに共感できるかどうかが、内と外を分ける指標になってしまう。つまり、うまく使えば一体感を生みますが、失敗すれば「仲間はずれ」の感覚を強めるのです。
では、チームリーダーとして、どうユーモアと付き合えばいいのでしょうか。
私がおすすめするのは、以下の3つの視点です。
- 関係性ベースのユーモアを心がける
──相手との信頼関係があるか、自分も笑われる立場になっているか。 - “笑いが起きる”ことより、“笑える空気がある”ことを大切にする
──誰かがすべることを許せる空気、それが心理的安全性です。 - ユーモアを一人で抱え込まない
──「チームのムードメーカーはリーダーである必要はない」メンバーの中に適任者がいれば頼りにしましょう
上記論文によるとユーモア研究はまだ初期段階であり、リーダーシップや組織行動におけるユーモアの理解をさらに深める必要があり、リーダーや組織は、ユーモアの内容や頻度、ターゲット、組織文化・権力構造への配慮が不可欠であると強調されています。