威圧感を与えずに話す――管理職のためのアサーティブ・コミュニケーション入門

職場でのコミュニケーションにおいて、「自分は気をつけているのに“威圧的”と受け止められる」「本音で対話したいのに、部下が委縮して意見を言ってくれない」――そんな悩みは少なくありません。特に忙しい現場や、成果主義が強い組織では、知らず知らずのうちに言葉も表情もきつくなりがちです。しかし、威圧感は信頼・チーム力を削ぎ、若手の成長機会を奪ってしまいます。
そこでおすすめしたいのが、「アサーティブ・コミュニケーション」(Assertive Communication)の実践です。
アサーティブ・コミュニケーションとは
アサーティブとは、直訳すると“自己主張”ですが、日本語の「自己主張」のニュアンスとは異なり、「自分も相手も尊重した伝え方」という意味合いがあります。その対極は「攻撃的/非主張的」な伝え方。アサーティブはちょうどその真ん中――つまり「率直だが配慮がある」――立ち位置です。
伝え方のタイプ | 内容 |
---|---|
攻撃的 | 一方的、相手を支配/否定 |
非主張的(受動的) | 言いたいことを我慢、相手優先 |
アサーティブ | 率直+配慮:自分も相手も大切にする |
威圧感が生まれる背景
まず、なぜこちらにそのつもりがなくても「威圧感」を感じさせてしまうのか考えてみましょう。
- 肩書きや役割の上下関係
管理職というだけで「何か言われるのでは…」と身構える部下も。 - 話し方・雰囲気の“強さ”
声量、表情、早口、指示口調、曖昧な否定などが威圧的と映ることも。 - “できて当然”の前提・期待感
無意識のうちに「わかるよね」「それくらいやってよ」と圧を与える発言や態度。
こうしたものが相まって部下には「威圧感」が感じられてしまう、その認知のズレに気づくことが、安心して話ができる第一歩です。
対話前に「自分の感情」「伝えたい意図」を整理する
アサーティブな伝え方の出発点は、「自分が本当に伝えたいこと」「今感じていることは何か」を一度整理することです。
たとえば…
- イライラしている → 「納期が近いことで焦っている自分がいる」
- なぜ注意したいのか → 「この部分を直してもらえれば、本人の成長につながるはずだ」
この“自分の感情・意図”に自覚的であるほど、表現がぶれず、結果的にトゲのない言い方ができます。
伝え方の枕詞(クッション言葉)を活用する
いきなり指摘や要望を伝えると、どんなに内容が正しくても、受け手には「否定」や「圧力」で響いてしまうことがあります。
そこでおすすめなのが、伝え方に「枕詞」を入れる工夫。
例――クッションフレーズ
- 「私自身、こう感じているのですが~」
- 「今の私の考えを率直に伝えてもいいですか?」
- 「あなたはどう思っていますか?」
- 「○○さんの考えもぜひ聞かせてほしい」
こうしたフレーズをワンクッション入れることで、相手は「対等な会話」と感じやすくなります。
アサーティブな実践ステップ
- 事実・状況を冷静に述べる
「最近、提出物に誤字が増えているようです。」 - 自分の感情や意図を率直に伝える(枕詞を添える)
「私自身、業務が忙しい分だけ、品質にはより気をつけたいと感じています」 - 相手の意見や感情にも必ず耳を傾ける
「あなたはどう感じていますか?」 - 相手と合意を目指す
「今後どうしていくとよいか、一緒に考えませんか?」
実践のコツ
- 「主語:私は」で話す(自分の感情・考えを軸に)
- 相手の話を途中で遮らない
- 意見がぶつかっても、相手の立場・気持ちを確認し共感する姿勢を持つ
まとめ――「伝え方」はスキル。練習すれば必ず変わる
威圧感を与えずに話すために特別な才能は必要ありません。
「自分の感情や意図を整理し、枕詞で対話のクッションをつくる」「アサーティブな伝え方を意識する」――この2つを心がけて、少しずつ“対話の質”を高めていきましょう。
結果として、部下が本音で話せるようになったり、意見交換に活気が出たりと、現場にポジティブな変化が生まれるはずです。管理職自身も、伝わらなかったモヤモヤから解放され、お互いを尊重し合う“風通しのよい職場”につながっていくことでしょう。