第2回:ファシリテーションと心理学の接点

社会心理学・認知心理学・感情知性(EQ)との関係
「人が話したくなる場」の条件を探る
「あの人がいると、つい本音が話せる」
「この場では、ちょっと意見を言いづらいな…」
こんなことを感じた経験はないでしょうか。
同じメンバー、同じ会議室であっても、「話せる場」と「話せない場」が生まれるのはなぜでしょうか?その違いには、人間の心理的メカニズムが大きく関わっています。
ファシリテーションとは、単に場を仕切ることではありません。人の感情、認知、関係性に働きかけて、「人が自然に話したくなる場」をつくることが本質です。そこには、いくつかの心理学の知見が役立ちます。
1. 社会心理学:人は場の空気に影響される
社会心理学では、人は他者の存在や周囲の雰囲気に強く影響されることが知られています。
例えば「同調行動」という現象があります。多数派の意見に合わせる傾向で、これが強い場では少数意見は埋もれてしまいます。他の多くの人が沈黙していると発言しにくくなるというのも「同調行動」の現れです。
また「地位効果」も見逃せません。肩書きや発言回数が多い人の意見ほど正しいと受け取られやすい傾向です。
ファシリテーターがこの影響を理解していれば、意図的に発言順を変える、無記名で意見を集めるなどの方法で場を中立化できます。「空気」を整えることは、意見の質を整えることでもあるのです。
2. 認知心理学:人は偏ったフィルターで物事を見る
認知心理学の分野では、人の思考はさまざまなバイアス(偏り)に影響されることがわかっています。その代表例が「確証バイアス」です。これは、自分が信じたい情報だけを探し、反対の情報を無意識に無視してしまう心理傾向です。
会議でこれが起きると、議論は「自分の意見の正しさの証明合戦」になりがちです。ファシリテーターは、あえて反対の視点を問いかける、別のデータや事例を提示するなどして、参加者の認知の幅を広げます。「みんなの前提を揺らす問い」が、場の思考を深めます。
3. 感情知性(EQ):感情が動かないと人は話さない
感情知性(EQ)は、自分や他者の感情を理解し、適切に対応する能力です。人は、論理的に正しいからといって必ず行動するわけではありません。会議で安心感や承認感を得られないと、意見を出すこと自体が心理的なリスクになります。
例えば、発言後に「面白い視点ですね」「それは重要な論点です」と短く肯定するだけでも、相手は「話してよかった」という感情を持ちます。これが次の発言意欲を生みます。EQを活かしたファシリテーションは、場の感情温度を上げ、チーム全体の参加度を高めます。
4.「人が話したくなる場」の3条件
これら3つの心理学的視点を組み合わせると、「人が話したくなる場」には共通する条件が見えてきます。
- 安心感がある:否定や軽視の心配がない。
- 尊重されていると感じる:自分の意見に価値があると受け止められる。
- 発言が活かされる実感がある:話した内容が議論や行動に反映される。
ファシリテーションとは単に会議を進行する技術ではなく、これらの条件を満たす「心理的な土壌づくり」です。場の空気や構造、感情の流れにまで目を配ることで、チームの対話は驚くほど変わります。
次回予告
次回は「心理的安全性を支えるマネージャーの関わり方」。エイミー・エドモンドソンの理論を読み解き、「安全」と「甘さ」の違い、そして問いかけがもたらす力についてお伝えします。