第9回:管理職のセルフマネジメント ― 感情と反応パターンを整える力

~チーム活性化のための心理学~ “管理職のためのファシリテーション講座”
チームの活性化につながる『心理学×ファシリテーション』の知見を10回連載でお伝えします。第9回の本稿は管理職のセルフマネジメントにフォーカスします。
ファシリテーションの力は、会議やワークショップの場面だけで発揮されるものではありません。日常的にチームを活性化していく管理職にとって、もっとも大切な土台は「自分自身をどう扱えるか」というセルフマネジメントです。
1. 感情を内省することの大切さ
管理職は多くのプレッシャーにさらされます。成果への責任、メンバーの育成、上層部からの期待──こうした重圧は、気づかぬうちに怒りや苛立ち、焦燥感として表に出ます。
心理学では、感情は人間関係において「感染」すると言われています。リーダーが不機嫌であれば、チーム全体の雰囲気が重くなり、発言が控えられ、挑戦する姿勢も薄れてしまいます。
だからこそ、まずは「自分はいまどんな感情を抱いているのか」を意識的に振り返ることが欠かせません。
2. 自分の反応パターンを知る
人にはそれぞれ「特定の状況で無意識に出てしまう反応パターン」があります。
- プレッシャーを感じると細部を管理しすぎる
- 部下の失敗に過敏に反応し、つい強い口調になる
- 意見が割れると早く結論を出そうとして一方的に決めてしまう
こうした反応パターンを放置すると、本人にとっては自然なふるまいでも、メンバーには「話しづらい」「否定された」と映り、心理的安全性を下げてしまいます。
3. セルフマネジメントがうまくいかないときに起こること
セルフマネジメントが機能しないと、以下のような現象が起こります。
- 会議が沈黙で支配される:管理職の苛立ちが場を硬直させる
- メンバーが萎縮する:否定的な反応が繰り返されることで「余計なことは言わない方がいい」と学習してしまう
- チームの挑戦心が失われる:失敗を避ける文化が根づき、学習や成長の機会を逃す
一見小さな態度や口調の違いが、実はチームの活力を大きく左右するのです。
4. セルフマネジメントを実践するために
では、管理職はどうすればセルフマネジメントを高められるのでしょうか。
- 感情ラベリング:「いま少し焦っている」「不安を感じている」と言語化することで冷静さを取り戻す
- 振り返りの習慣:一日の終わりに「今日、どんな場面で感情的に反応したか」を書き出す
- フィードバックを受ける:自分では気づきにくい反応パターンを、信頼できる同僚やメンバーから教えてもらう
これらを続けることで、自分の感情や反応を俯瞰し、場に与える影響を調整できるようになります。
5. チームを映す「鏡」としての管理職
結局のところ、チームは管理職の感情と態度を映す鏡です。セルフマネジメントを怠れば、チームは混乱し疲弊します。しかし、自分の感情を受け止め、意識的に反応を選べる管理職は、自然と心理的安全性のある場をつくり、メンバーの主体性を引き出せるのです。
次回予告
次回第10回【最終回】は「心理学とファシリテーションをつなぐ ― 管理職に求められる実践知」。
連載の最終回として、心理学とファシリテーションをどのように結びつけ、日常のマネジメントに活かしていくかをお伝えします。