第6回:問いのデザイン力 ~場の流れをつくる質問術~

「管理職のためのファシリテーション講座」第6回は、問いの力に注目します。ファシリテーションにおいて問いは、場の空気をつくり、対話の方向性を決める“舵”のような役割を果たします。問い方ひとつで、会議が沈黙に包まれることもあれば、意見が次々に湧き出ることもあります。では、どのような問いがチームを活性化させるのでしょうか。
1. 開かれた問い:思考と視野を広げる
まず大切なのは「開かれた問い」です。
閉じた問い(「はい」か「いいえ」で答えられる質問)は情報確認に役立ちますが、部下の考えを深めたり新しい視点を生み出したりする力は弱いのです。
一方、「どう思う?」「他にどんな可能性がある?」といった開かれた問いは、思考を広げ、発言を引き出します。部下にとって「自分の意見が歓迎されている」という感覚が育まれ、心理的安全性も高まります。
2. 深掘りする問い:意味や背景に迫る
意見が出てきたときに大事なのが「深掘りする問い」です。
「なぜそう考えたの?」「どんな経験が影響している?」と尋ねることで、表面的な発言から一歩踏み込んだ対話が生まれます。
深掘りする問いは、部下自身にとっても「自分の考えを整理する機会」となります。単なる発言が“学び”に変わり、チームの知識や経験の共有につながるのです。
3. 価値に触れる問い:内発的動機づけを高める
さらに効果的なのが「価値に触れる問い」です。
「このプロジェクトが成功すると、あなたにとってどんな意味がある?」
「あなたが大切にしている価値観と、この仕事のどこがつながる?」
こうした問いを受けると、人は自分の内面と仕事を結びつけて考えます。心理学的に言えば、自律性が高まり、行動のエネルギーが内側から湧き出てきます。結果として、やらされ感ではなく「自分の挑戦」として取り組む姿勢が強まるのです。
4. 問いの心理的効果
問いには、いくつかの心理的メカニズムが作用します。
- 認知の広がり:新しい可能性を考えられる
- 自律性の喚起:自分で考えたからこそやりたい気持ちになる
- 承認と効力感:「自分の意見には価値がある」と実感できる
- 心理的安全性の醸成:自由に語れる雰囲気が生まれる
つまり、問いは単なる情報収集の手段ではなく、チームを前向きに動かす心理的な仕掛けなのです。
5.ファシリテーションの心得
問いをデザインするうえで管理職が心に留めておきたい心得は次の3点です。
- 問いは“答えを当てる”ためでなく、“考えるきっかけ”のためにある
良い問いは、部下の思考を広げ、チーム全体の視野を深めます。質問を情報収集や正解探しの手段と捉えるのではなく、「相手の可能性を開く入口」として活用しましょう。 - 沈黙を恐れず、相手の思考の時間を尊重する
問いを投げかけたあとは、すぐに答えを求めないこと。数秒の沈黙は「考えている証拠」です。場を持たせようと管理職がすぐに補足してしまうと、問いの効果が薄れてしまいます。 - 問いの後には必ず“受け止め”を置く
どんな答えであっても「そういう考え方もあるんだね」「なるほど」と一度受け止めることが、安心感と心理的安全性につながります。そのうえでさらに問いを重ねれば、対話は深まり、場に流れが生まれます。
問いは「部下を動かす命令の代替」ではなく、チームを成長させる触媒です。管理職が問いを通じて「考え、語り、学ぶ場」をつくり出せれば、チームは自走し始めます。
次回予告
次回は「沈黙と感情にどう向き合うか」をテーマに、ファシリテーションに欠かせない“聴く姿勢”と“共感力”について考えていきます。