第7回:沈黙と感情にどう向き合うか

会議や面談で、あるメンバーがほとんど口を開かないことはありませんか?
沈黙は「無関心」や「反対」のサインと捉えられがちですが、心理学的には多様な背景があります。沈黙の理由を理解し、感情を適切に扱うことは、チームの活性化を促したい管理職にとって必須のファシリテーションスキルです。
沈黙の裏にある4つの心理
- 熟考型:考えをまとめるのに時間が必要
- 防衛型:批判や否定を恐れている
- 観察型:場の流れや他者の反応を見極めている
- 抵抗型:議題や進め方に納得していない
社会心理学では、沈黙は「発言コスト」と「心理的安全性」の掛け算で説明されます。
発言コストが高く、心理的安全性が低い場では、人は沈黙を選びます。

「発言コスト」とは?
人が場で発言する際に感じる心理的・社会的リスクや負担の大きさを指します。
心理的リスク:
「間違ったらどう思われるだろう」「否定されたら恥ずかしい」などの不安。
関係的リスク:
「上司に逆らうことになるのでは」「同僚との関係が悪くなるかも」という懸念。
制度的リスク:
「この意見を言ったら人事評価に響くかもしれない」など、組織の制度や慣習に結びつく不安。
時間的・労力的負担:
「長く説明しないと伝わらない」「発言しても取り合ってもらえないかも」と感じる面倒さ。
こうしたリスクや負担を総合して「発言コストが高い/低い」と表現します。
沈黙への3つのアプローチ
① 待つ
相手が熟考している場合、数秒〜十数秒の沈黙は「思考の時間」です。無理に話させようとせず、視線やうなずきで「待っている」ことを示します。
② 小さく聞く
「どう思いますか?」の代わりに「ここまでの話で気になったことは?」と答えやすい小さな問いを投げます。心理的ハードルを下げることで発言が出やすくなります。
③ 一対一で確認する
場では話しづらい人も、個別なら本音を話すことがあります。後日フォローすることで信頼を積み重ねられます。
感情を扱うための基本姿勢
沈黙の背景には、しばしば「感情」があります。不安、怒り、悲しみ、戸惑い…。これらを押し込めるのではなく、安全に表出できる場をつくることが重要です。
感情を否定しない:「そんなこと気にしなくていい」ではなく「そう感じたのですね」と受け止める
感情のラベリング:心理学研究では、感情に名前をつけるだけでストレスが軽減されるとされています。

「感情のラベリング」とは?
例えば下記のように相手の言動に込められた感情を推測して言葉にして明示することです
・「それは不公平だと感じているんですね」
・「かなり不安を抱えているように見えます」
・「苛立ちがあるのかもしれませんね」
これによって相手は自分の気持ちが理解されたと感じ、
・建設的な対話に戻しやすくなる
・感情が承認されることで相手の緊張が和らぐ
・感情と課題を切り分けやすくなる
といった影響が期待できます。
共感的リスニングの力
共感的リスニング(Empathic Listening)は、単なる「聞く」ではなく、相手の感情や価値観に寄り添う姿勢です。
手順はシンプルです。
- 相手の言葉を遮らない
- 言葉だけでなく表情・声のトーンも観察する
- 要約して返す:「つまり〜ということですね」
- 感情に触れる:「それは大変だったのですね」
このプロセスを通じて、沈黙や感情の奥にある「伝えたいこと」が浮かび上がります。
沈黙をネガティブに捉えない
ファシリテーターの役割は、沈黙を「対話の断絶」ではなく「対話の間」として扱うことです。
場を急かさず、感情を尊重し、少しずつ言葉が紡がれる流れをつくりましょう。
次回予告
第8回は「巻き込むチームのつくり方」。メンバーの主体性と責任感を育む、参加型の場づくりの原則と具体的な設計方法をご紹介します。