第8回:「巻き込む」チームのつくり方

~チーム活性化のための心理学~ “管理職のためのファシリテーション講座”
管理職にとって「チームを巻き込む力」は、成果を出し続けるための重要な条件です。優れた管理職は、単に場を仕切るのではなく、メンバー一人ひとりに「自分もこのチームの一部だ」という当事者意識を育てます。しかし実際には、発言が特定の人に偏り、その他のメンバーは受け身に回ってしまう――そんな光景は少なくありません。では、どうすれば「全員が関わるチーム」をつくることができるのでしょうか。これが第8回のテーマです。
1. 巻き込みの3つのレベル
巻き込みには段階があります。整理すると以下の3つです。
- 情報提供型:上から情報が一方的に与えられる段階。
- 意見交換型:意見は出るが、最終判断は上層部に委ねられる段階。
- 協働型:メンバーが意思決定や実行に実質的に関与する段階。
管理職が目指すべきは、単に意見を集めることではなく、メンバーが意思決定や行動の責任を共に担える「協働型」への移行です。
2. 巻き込みの場づくりの原則
巻き込みを実現するためには、次の3つのポイントが欠かせません。
- 目的を共有する
ゴール設定理論によれば、人は自分が意義を感じる目標に向かう時に最も動機づけられます。目的が曖昧な場では主体性は育ちません。 - 貢献できる役割を渡す
全員に「自分が果たす役割がある」と思える場を設計します。小さな成功体験の積み重ねがチームへの関与を深めます。 - 発言のハードルを下げる
少人数での対話や付箋ワークなどを用い、心理的に安心できる発言機会をつくります。
3. 主体性を引き出す関わり
場を整えるだけでなく、管理職自身の関わり方も重要です。
- 選択肢を渡して委ねる:「この進め方とこの進め方、どちらでいきますか?」
- 問いで考えを促す:「次の一歩はどうすれば良いでしょう?」
- 感謝と承認を重ねる:「その視点は助かります。チーム全体の判断が広がりました」
こうした関わりが、メンバーの心の温度を上げ、主体性を引き出していきます。
4. 巻き込みの落とし穴
しかし「全員を巻き込む」プロセスには不都合や葛藤も伴います。
- 意見がまとまらず時間がかかる
- 声の大きい人に議論が引っ張られる
- 全員の同意を取ろうとして停滞する
管理職は「全員の合意=ゴール」と誤解しがちですが、それはかえって主体性を削ぎます。むしろ重要なのは、多様な意見を尊重しつつ前に進む決断力です。
また、巻き込みを意識しすぎると「迎合」になり、管理職自身のリーダーシップを見失う危険もあります。この葛藤を自覚し、バランスを取ることが管理職に求められます。
5. 巻き込みがもたらす効果
落とし穴を乗り越え、真にメンバーを巻き込むことができると、チームには次のような変化が生まれます。
- 意思決定のスピードと質が高まる:一人で抱え込むよりも多様な視点が集まるため、判断が強くなる。
- 責任感と自発性が育つ:自ら決定に関わった分、実行にも責任を持ちやすくなる。
- 心理的安全性が広がる:承認や感謝の循環が増え、安心して意見を出せる文化が根付く。
結果として、チーム全体の「心の温度」が上がり、困難な状況でも前向きに挑戦できる力が生まれます。これは単なる会議の効率化ではなく、チームの活性化そのものを支える基盤なのです。
次回予告
第9回はチームの活性化を促進するために重要な「管理職のセルフマネジメント」。管理職自身が感情を内省し、反応パターンを理解することが、チームにどのような影響を与えるのかを掘り下げます。