第3回:心理的安全性を支えるマネージャーの関わり方

エイミー・エドモンドソンの理論と現場での誤解
安全と甘さの違い、問いかけの力、そして「YES AND」の姿勢
第1回で心理的安全性を育む関わり方こそが、ファシリテーションなのだというお話をしました。今回はそのあたりをもう少し深めたいと思います。
心理的安全性は、米ハーバード大学のエイミー・エドモンドソンが提唱した概念で、「チーム内で率直に発言しても罰せられない・否定されないという信頼感」を指します。
近年、この言葉が急速に広まりましたが、現場ではしばしば誤解されます。安全性を「何を言っても許される甘い環境」と混同してしまうケースです。
1.「安全」と「甘さ」の違い
心理的安全性の本質は、率直な意見や異なる視点を出せる環境にあります。
それは同時に、時には耳の痛い指摘や厳しい質問も受け止めることを意味します。
甘さとは、衝突や不快感を避けるために本音を言わない状態。安全とは、衝突を恐れずに建設的に意見を交わせる状態です。
2.マネージャーの役割は「対話の扉を開くこと」
エドモンドソンの研究によれば、心理的安全性の高いチームほど学習や改善のスピードが速くなります。そのためにマネージャーができることは、
- 失敗を責めずに学びに変える姿勢を示す
- 「あなたはどう思う?」と意見を求める
- 質問を投げかけることで沈黙を破る
こうした小さな関わりが、メンバーに「発言しても大丈夫」というサインを送ります。
3.「YES AND」の姿勢をチームに浸透させる
心理的安全性を高める実践的な方法の一つが、即興演劇(インプロ)でも使われる「YES AND」の姿勢です。
これは相手の意見をまず肯定的に受け止め(YES)、さらにそこに自分の考えや提案を積み重ねる(AND)という対話法です。
例えば、
- NG例:「それは違うと思います」
- YES AND例:「面白い視点ですね。そしてこういう方法も考えられそうです」
否定から入ると会話は閉じ、肯定から入ると会話は広がります。「YES AND」を意識することで、チーム全体の発言量と創造性が自然に高まります。
4.問いかけの力
心理的安全性は「話す勇気」と「聴く姿勢」の両方で成り立ちます。特にマネージャーが問いを投げるときは、
- 答えが一つでないオープンクエスチョンを使う
- 相手の価値観や経験に触れる質問をする
- 沈黙を恐れず、相手が考える時間を待つ
こうした配慮が、単なる意見交換ではなく「対話」を生みます。
5.実践のポイント
- 発言を否定から始めない(YES ANDを習慣化)
- 失敗を学びに変えるストーリーを共有する
- メンバーの意見を引き出すために順番を変える・小グループで話す時間をつくる
- 会議後、「今日の対話で良かった点」を振り返る
心理的安全性は「やさしさ」ではなく「率直さ」を育む土台です。
マネージャーが率先してYES ANDの姿勢を示し、問いかけを続けることで、チームは互いの違いを受け入れ合い、創造的に成長していきます。
次回予告
次回は「『話し合い』が機能しない理由とその処方箋」。会議が空転する心理的メカニズムと、それを乗り越えるための実践法を解説します。