第1回:なぜ今、管理職にファシリテーション力が必要なのか?

管理職のためのファシリテーション講座

「うちのメンバー、会議でなかなか本音を言ってくれないんですよね」

これは最近、ある企業の管理職研修で耳にした声です。同じような悩みを抱えているマネージャーは少なくありません。指示を出しても動きが鈍い、1on1で何を話しても「特にありません」と返される、チームに一体感が生まれない──こうした現象の裏には、「対話の力」の不足があります。

その解決の鍵を握るのが、ファシリテーションという関わり方です。

1.ファシリテーション=会議進行ではない

ファシリテーションと聞くと「会議の進行役」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、ここでいうファシリテーションとは、「人と人との関係性に働きかけ、対話と協働を促す技術・態度」のことです。つまり、チームを活性化し、成果を生み出す土壌を整える力だと言えるでしょう。

それは決して、特別なスキルを持った人だけのものではありません。むしろ、日常的に部下やチームと接するマネージャーこそ、最もファシリテーションの影響力を持つ存在なのです。

2. なぜ今、ファシリテーションが必要なのか?

社会の変化は加速し、かつての「上司が答えを持ち、部下に教える」マネジメントは通用しなくなりました。情報が複雑化し、価値観が多様化する今、現場で起きている課題に正解はありません。だからこそ、「一緒に考える」「違いを尊重する」「自分の言葉で語れる」チームが求められています。

Googleの研究でも、成果を出すチームに共通する最も重要な要素は「心理的安全性(Psychological Safety)」であると示されています。これは「自分の考えや失敗を安心して共有できる環境」を意味し、その土台がなければ、どれだけ優れた戦略も機能しません。

そして、心理的安全性を育む関わり方こそが、ファシリテーションなのです。

3.管理職にとってのファシリテーションの価値

管理職がファシリテーターの視点を持つと、チームの関係性が変わります。例えば、次のような変化が起こります。

  • 会議で沈黙していた部下が、自分の意見を語り始める
  • 業務の指示がなくても、メンバーが主体的に動く
  • チーム内で対立が起きても、建設的な対話に変わる
  • 若手とベテランの橋渡し役として、関係性をつなげられる

これらはすべて、管理職が「問いかけ」「傾聴」「場の設計」に意識を向けることから始まります。

4.まずは、こんな場面に注目してみよう

以下のような場面では、ファシリテーションの力が特に求められます。

  • 「このままでいいんですかね?」という漠然とした不安がチームに漂っている
  • 発言が偏っていて、特定のメンバーばかりが話している
  • 意見を出しても受け止められないと感じて、メンバーが萎縮している
  • リモートワークや年齢差によって、チームの一体感が感じられない

どれも、「関係性」や「対話の質」に目を向けることで、状況が変わる可能性があります。

次回予告

次回は、「ファシリテーションと心理学の接点」と題し、なぜ人は話したくなるのか、どんな場に人は安心感を覚えるのかといった心理学の視点からファシリテーションを読み解いていきます