『妄想』を駆動力にできる人・組織は強い
いつの間にか『他人モード』が私たちの脳をジャックしている
佐宗邦威さんの『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN 』を読みました。
本書の冒頭出てくる『他人モード』の話は 本当に「あるある!」でドキッとさせられるものでした。
『他人モード』というのは、
顧客を満足させるにはどうしたらいいのか?
組織の中で評価されるにはどうふるまえばいいのか?
どうしたらFacebookの投稿に「いいね!」が増えるのか?
といったように他人の満足を考えることに私たちの脳が占有されている状態のことです。
「自分が本当は何をしたいのか」、「何を感じているのか」といったことが『自分モード』のスイッチが切れてしまっているのでわからなくなっていて、ワクワクや感動を感じる力も鈍っている。
そんな『他人モード』に由来する停滞感のことを佐宗さんは”ネット社会に生きる僕たちの「生活習慣病」”という非常にうまいメタファー(=喩え)を使って指摘しています。
このメタファー(=喩え)やアナロジー(=類推)は『単なる妄想』を『価値あるアイデア』に昇華させていくプロセスの中で重要な要素として本書の中で挙げられているものでもありまして、上手に使えるようになりたいところです。
それでは、なぜ『他人モード』ではダメで、『自分モード』のスイッチを入れる必要があるのかというと、人のパッションや脳内活動や行動力を駆動するのはやっぱり 自分の「好き」とか、「関心」につながる 内発的な動機でしかありえないからです。本書の終章では、”「自分モード」こそが、目の前の変化の波に流されない「錨」になってくれるのだ”という、これまたうまいメタファーで「自分モード」の大切さが語られています。
『論理』からではなく『妄想』から始める
佐宗さんが本書の中でおっしゃっているように日本は『妄想』の地位が低い国だと思います。「妄想=たわ言=実現するわけない」の図式がデフォルトであると感じられます。Big ideaよりも地道な努力で10%のカイゼンというほうが美徳と考える文化があるんじゃないでしょうか。大きな夢を組織で語れば、「そんなの妄想でしょ。根拠はあるの?」と冷ややかな物言いが入るし、子どもたちは夢や空想にふけるより正解のある漢字や算数のドリルに1問でも多く取り組んだ方が親や教師に褒められるみたいな。この辺の『妄想』を封印させてしまうメンタルモデルを意識的に変えていかないと、国をあげてイノベーション流行りなのにイノベーションが生まれにくいという日本の皮肉で残念な状況は打破できない気がします。
内発的な『直感』や『妄想』を起点として考えていく思考をこの本では『ビジョン思考』と呼んでいるのですが、『デザイン思考』や日本の組織において非常になじみ深いPDCAを回していく『カイゼン思考』などの既存の思考法とどのように違いがあるのかということが非常にわかりやすく整理されています。それだけでなく『ビジョン思考』をいかに身につけ、『直感』や『妄想』をいかに価値あるアイデアに磨いていくのか、その具体策までが豊富に紹介されているところが、この本のすごいところだと思います。
先の見えないVUCAの時代。『論理』や『市場ニーズ』を起点に考えるアプローチでは活路を切り開いていけないという先詰まり感を多くの人や組織が感じているのではないでしょうか。『妄想』、『直感』から始めるビジョン思考は組織のマネジメントやこれからの時代を担う子どもたちの教育にも取り入れてもらえたら、世の中がいい感じで変わってくるのではと期待が膨らみます。
でも、まずは個人として自分の中の封印されている『妄想(ビジョン)』を引き出していくことからスタートですね。
全ては余白のデザイン
自分の中の封印されている『妄想(ビジョン)』を引き出すと言っても、どうやって?
普段左脳優位でロジカルに考えることが多い人ほど、戸惑いを覚えるのではないでしょうか。
佐宗さんが『ビジョン思考』を身につけるコツとして提唱しているのは『余白をつくる』ということです。余白づくりの具体的な一例ですが、『モーニングジャーナリング』という感情アウトプットを練習する習慣が紹介されています。それは毎朝決まった時間に、専用のノートに、お気に入りのペンで、毎日決まったページ数、自分の主観的な感覚・感情にフォーカスして「その時感じていること」を書き、それを最低でも1か月以上続けるというものです。まっさらなノートという「空間的余白」とそれを埋めるために毎朝予定として確保する「時間的余白」をつくることになります。
また、『余白づくり』のひとつの方法として『妄想クエスチョン』というのも紹介されています。質問というのは、それに対する回答を期待した『余白』であるという考え方は新鮮でした。
さらに『デザイン思考』のモットーのひとつである『Build to think(考えるために作る)』は『ビジョン思考』において『妄想』を活性化させるために重要なアプローチになるようです。頭で考えてから手を動かすのではなく、子どもが遊ぶ時のように手を動かし続けていく中でアイデアの輪郭をはっきりさせていくということです。『妄想』を膨らませられるようなお題と組み合わせて手を動かして何かをつくっていくようなワークはレゴブロックはもちろんのこと粘土などでも気軽にできそうです。
この本を読み進めていくうちに、私の中で人や組織の余白づくりのお手伝いをできたらいいなという妄想も湧き上がってきました。ビジョン思考を自分のものにするための手掛かりとして紹介されているこの本の中の様々なティップスを参考にちょっとしたワークのプログラムなんかをつくってみようかなと思っています。『妄想インタビュー』というのがあるのですが、これはぜひ組み込みたいです。