デザイン思考とマネジメントを繋ぐ1冊

戦略の創造学

「企業の外側」から物事を観察・洞察

山脇秀樹さんの『戦略の創造学』を読了しました。

山脇さんは日本人で初めて欧米のビジネススクールの学長を務めた方で、
そのビジネススクールとはカリフォルニア,クレアモントのドラッカースクールです。

山脇さんはこの本を書かれた目的や意図を以下のように説明されています。
●デザイン思考の概念とエッセンスを利用して新しい企業モデルを構築する方法論を解説する
●①デザイン思考、②ドラッカーのマネジメント、③経済学を礎にする戦略論、
 この表面的にお互い相容れないように見える3つの思考を混ぜ合わせて新しいマネジメントの視点と概念を紹介する
●デザイン思考をどのように戦略モデルに組み込んでいこうかと考える際に役に立つと考えられるいくつかの「気づき」を提示。


そして、デザイン思考の本質として、
以下のことが非常に重要であると強調されています。
「ものごとを消費者、顧客、訪問客、聴衆、散歩中の歩行者、あるいは中学生の目線から体験して、共感すること」
マネジメントにとって「企業の側」からではなく、「企業の外側」から物事を観察し、洞察することが重要。

デザイン思考を取り入れてみたけれど、うまく活用できなかったという
組織のマネジメント層の方々にぜひ読んでいただきたい、
デザイン思考とマネジメントを繋ぐ本だと思いました。

山脇さんが創設されたドラッカースクールとアートセンターの共同学位プログラム、
イノベーション・システム・デザイン(ISD)では
「デザイン思考をいかにマネジメントに取り込むのか」、
あるいは
「デザイン思考を実際のビジネスに役立てようとする場合には何が欠けているのか」
といったマネジメントの視点からの問いが大切にされているそうです。

行ったり来たりの迷走を恐れない

この本の中で「なるほど、確かに!」と思った指摘がありました。

それは、スタンフォード大学d・schoolが体系化したデザイン思考の5つの要素の流れ※
※「共感」⇒「定義」⇒「創造」⇒「プロトタイプ」⇒「テスト」
が、わかりやすい反面、
テンプレートとして機械的にステップバイステップで作業を進めるものとして捉えられると
「デザイン思考」の本質とずれが生じるという指摘です。

山脇さんは
各要素をバラバラにして行ったり来たりの迷走を恐れないこと
がデザイン思考の実践において成功のカギとおっしゃっています。

確かに、デザイン思考に対して、
「ステップ化された手順を踏みさえすればイノベーションが生まれる」というような、
それこそ「魔法の杖」的な過度な期待を抱き、
それで成果が上がらないとなると、
「デザイン思考、だめだねー、今度はアート思考かな」
というようにツールジプシーになっているケースはあるあるではないでしょうか。

また、常に明快な進捗報告が求められる組織文化のもとでは、
「行きつ戻りつの迷走」というようなファジーなプロセスが許容されず、
結局デザイン思考が根付かないということも多々ありそうです。

企業の中でデザイン思考をイノベーション創出に活かすためには、
迷走を恐れず、そのプロセスに意味があると信念をもってとどまることのできる
リーダーシップと、それを許容するマネジメント層の理解が必要なのでしょうね。

デザイン思考導入以前の重要な問い

この本からは
表層的、アドホックにデザイン思考を取り入れることは意味がない
というメッセージも強く読み取れます。

デザイン思考を導入するからには、
その意図が企業の目的にもビジョンにも明確に反映される必要がある、
企業内部での一貫性・整合性が問われる、
ゆえにスタートアップの小企業ではデザイン思考が取り入れやすいのに対して、
大企業では取り入れにくい、と。

そして、いくら「すでに起こった未来に」目を向け、事業機会を見つけ、良いアイデアを創出しても、
ビジョン に 基づく 軸足 が なけれ ば、
目的 を 達成 する ため の 戦略 の 方向 がわからないというのも
重要な指摘です。
ビジョンは方向性を決定づける北極星です。

What do we want to be?
What will be our business?
What should be our business?


デザイン思考導入云々の前にこれらの問いへの答えを考える作業が重要なキーになるようです。

そして、日本企業へのエールとして
「良いものを安く」という、もはやグローバルの競争の中では後塵を拝するしかない過去の戦略を捨てて
「意味」と「共感」で世界の顧客に認められる日本のブランドづくりにデザイン思考を役立ててほしい
というメッセージも伝わってきました。

さらに「意味」には「客観的に評価できる意味」と「客観的に評価できない意味」があり、
日本の企業は機能、品質、安全性、信頼性、耐久性、といった「客観的に評価できる意味」に焦点を当てがちだけど、「客観的に評価できない意味」の方が消費者の購買決定要因として重要になっているということも述べられています。
「客観的に評価できない意味」としてあげられているのは、
美しさ、表現力、ユニークさ、面白さ、遊び、エンターテイニング、楽しい、
エンパワー、社会的満足感が得られる、などです。

この辺はロベルト・ベルガンディ教授の「意味のイノベーション」にも通じるところだと感じました。

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